待ち人来たらず
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待ち人来たらず
残業帰りの23時台の地下鉄御堂筋線で、聞き捨てならぬ会話を耳にした。喋り方から察するに関東の人ではないかと思うが、大阪駅周辺の百貨店のインフレ状態に対する批判である。先週の10月25日に阪急百貨店の二期棟がオープンし、足掛け7年に亙って工事をしていた梅田阪急がやっとその全容を現したのであるが、鳴り物入りのオープンの割には全然混雑していないではないかというものである。沿線住民としてこれは初日に行っておかねばならぬということで休日というのに朝から家人と2人で出陣したのではあるが、確かに仰る通りで、入場整理をやっているものの入店は極めてスムーズで、覚悟していた待ち時間は皆無、身動きも自由自在であり、拍子抜けだったのは事実である。事実は事実だからそれを云々するのは構わないが、続けて何を言うかと思って聞き耳を立てると、「JR三越伊勢丹も売り上げは全然ダメ、梅田周辺の百貨店の売り場面積合計は、新宿周辺のそれを上回るというのに、売り上げは新宿のそれを大きく下回っているらしい。梅田の分際で新宿に対抗しようなんて不遜も甚だしい」という趣旨のことを、高歌放吟よろしく大音声(だいおんじょう)で語っているではないか。
あのな、いつ誰が梅田を新宿に対抗させようなんて言うたんや。おのれ、天下の御堂筋線の車内でそこまで大阪を扱き下ろすからには相当な覚悟を持って乗ってきてんねやろな、と凄んでみようかと思ったが、実行に移せないのは、自分が紳士であるからか、はたまたただのヘタレである所以なのか。それにしても関東人のくせに、大阪の事情にえらい詳しいものである。
そうした憤懣はさておき、大阪市内の各所で行われているこのような百貨店の新装と連動する形で、それと直結するターミナル駅の改装をやっている。綺麗で便利になるのは大変結構なのだが、一つ困っているのは、待ち合わせ場所の選定に難儀することである。定番とされてきたスポットが、次々にその姿を消しているのだ。
件(くだん)の大阪駅にはかつて、「噴水小僧」という待ち合わせスポットがあった。中央口コンコースの北側付近、それこそJR三越伊勢丹やルクアのエントランスに取って代わられた場所である。新大阪駅の千成びょうたんと並んで、旅行者の待ち合わせ場所としてはあまりに有名なスポットだった。とりわけこの「噴水小僧」は、学生たちが連れ立って旅立つ際の集合場所として定番であり、かく申す私も、大学時代にサークルでどこかに行かんとするときには決まって、ここが集合場所として指定されたものである。定期の夜行列車がほぼ全廃となった今、このような大きな待ち合わせ場所は不要と判断されたのか、それとも新しい大阪駅には似つかわしくないと思われたのか、「噴水小僧」が再びその姿を現すことはなかった。新設された3階連絡橋口の上層部に「時空(とき)の広場」というのが設けられたが、1階に改札口があるのにわざわざ4階まで上がって待ち合わせる酔狂な客もそうはいるまい。聞けばこの「小僧」、1901年から大阪駅に鎮座していた年季物で、小僧を名乗りながら御年111歳の長寿なのだとか。今は弁天町の交通科学博物館の倉庫で眠っているらしい。
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